マウスピース矯正の
種類と違い
現在、矯正用マウスピースのブランドは国内だけで20種類ほどあります。このページでは様々なマウスピースの「テクノロジーの違い」と「効果の違い」を詳しく解説します。
マウスピース矯正の種類
まず、国内で流通している矯正用マウスピースブランドをおおよそ知名度順(私基準です)で列挙してみましょう。みなさんいくつ知っていますか?
マウスピース矯正ブランド一覧
コンプリヘンシブマウスピース
インビザライン(症例数:1800万)
クリアコレクト(症例数:600万)
シュアスマイル(症例数:100万)
ローコストマウスピース一覧
キレイライン(症例数:12万)
oh my teeth(症例数:0.8万)
アソアライナー(症例数:不明)
エミニナル矯正(症例数:不明)
スマイルトゥルー(症例数:不明)
クリアライン(症例数:不明)
hanalove(症例数:3万)
hanaravi(症例数:不明)
ゼニュム(症例数:不明)
ディパール(症例数:不明)
ビフォーデント(症例数:不明)
矯正用マウスピースはコンプリヘンシブとLCM(ローコストマウスピース)に分類されます。そしてそれらの違いは、
・コンプリヘンシブ=全顎矯正用(重症例用)
・LCM=部分矯正用(軽症例用)
…と説明されることが多いのですが、実はその解釈はあまり正しくありません。また、矯正性能の違いは他にもあります。どう違うかを正しく理解いただくために、まずは矯正マウスピースの「テクノロジーの違い」から解説していきます。
矯正テクノロジーの違い
違い1/4アタッチメントの有無
アタッチメントとは矯正時に歯に接着するこの突起です↓
このアタッチメントを使うことで、動かしたい歯に対してより大きな力を加えたり、より正確な方向に力を加えられるようになります。
第一の違いは、この「アタッチメントの有無」です。あるとないとでは大違いで、アタッチメントがないと「回転」「トルク」「挺出」という3つの移動はほぼ不可能です。(補足:歯の移動様式)
例を挙げましょう。アタッチメントがないと、たとえば下図のような「左上3番(左頬側)の犬歯を回転させる動き」はできません。(回転せず押し込むだけだとかなり微妙です。)
また、下図のように、「左1番(左前歯)の外側を少しだけ下に引っ張りながら奥に押す」という精緻な動きもできません。(ただ押し込むだけだと前歯が水平ラインが揃いません。)
さて、一つ目の違いがわかったところで次は2つ目の違いです。
違い2/4マウスピースの材質と構造
矯正用マウスピースはどれもポリマー素材です(ゴムやプラスチックの一種)。でも、化学組成は異なり、剛性(硬さ)と柔軟性のバランスはマウスピースブランドによって違います。
剛性が高い素材は、装着直後に高い矯正力が得られます。でもその硬さゆえにすぐに変形してしまい、装着1日目にして矯正力はほとんど失われます。
逆に柔軟性が高い素材は、変形しないため一定の矯正力を維持できます。でも柔らかいゆえに矯正力そのものが弱いです。
つまり結論、剛性重視であれ柔軟性重視であれ、単層構造の旧式マウスピースは強い矯正力を長期間維持することができません。よって計画どおりに歯が動かないということが起こりえます。
この弱点を克服するために生まれたのが、多層構造のマウスピースです。(以下図)
たとえば当院が採用するクリアコレクトは、外側が高い剛性を持つ素材でできており、内側は柔軟性が高い素材でできています。これによって強い矯正力を長期間維持できるようになっています。
下のグラフを見てください。
このグラフは、多層構造のクリアコレクト(赤線)と、単層構造のマウスピースの矯正力が、それぞれ時間経過とともにどう減衰していくかを表したグラフです。
ご覧のとおり矯正力の減衰具合はかなり違います。単層構造のマウスピース(青線)は装着後24時間で驚くほど矯正力が減衰していますね。
単層よりも多層のほうが矯正力が高く、より計画どおりに矯正が進む確率が高い、ということです。
違い3/4トリムラインの形状
トリムラインとは矯正用マウスピースのカット方法のことです。以下の3種類があります。
ブランドによってトリムラインの形状は違います。そしてトリムラインの形状によって、マウスピースによる歯の保持力が変わります。マウスピースがどれだけ歯をしっかり掴んでおくことができるかが変わり、矯正力を意図した方向にかけられるかどうかが変わるわけです。
ではクイズです。3つのうちどれが最も保持力が高いかわかりますか?
正解は・・・
2mmのトリムラインです。しっかりと歯茎まで覆うことで、歯牙全体に均一に力を加えることができます。(下図)
この保持力の違いは2012年にネバダ大学の博士らがおこなった研究でも立証されています。
下のグラフはトリムライン形状ごと(&アタッチメントの有無ごと)に保持力を数値化したグラフです。
やはり歯茎を覆うトリムラインのほうが保持力が高いです。
なお、保持力の違いによって「歯体移動(歯の水平移動)」の正確さに差が出ます。スカラップは歯牙全体を掴むことができないため、歯を歯根ごと平行移動(歯体移動)することが困難です。どうしても矯正力が歯冠上部に集中してしまうため、押すと傾斜してしまうのです。(歯体移動の理論に関する詳細はこちら)
違い4/4セットアップの精度
(症例データ量)
マウスピース矯正はマウスピースを何枚も使います。そのマウスピースを設計することを「セットアップ」といいます。
第4の違いはこのセットアップの精度です。
図:クリアコレクトのセットアップ画面
セットアップの手順はこうです。
まず最初に歯科医師が治療目標(最終的に目指す歯ならび)を決めます。そして、どの歯をどこに、どんな順で動かすのか、おおよその治療方針を立てます。
次にマウスピースメーカーが、治療方針をもとにマウスピースの設計をはじめます。
手順は以下のような感じです。
セットアップの手順
1. 動かす歯と移動位置を定める
2. 加力に必要な固定源とする歯を定める
3. 矯正力の方向と量を定める
4. マウスピースに必要なズレを計算する
と、こんな感じです。
このセットアップの精度は「症例データの量」で決まります。なぜなら、歯並びの状態によって固定源とすべき歯も、必要な矯正力もまったく異なるためです。
「この歯並びに近い過去の症例で、ちゃんと動いた / 動かなかった」というデータが多ければ多いほど精度が高いセットアップが可能になるわけです。
症例データの量は先発のインビザライン(1500万症例)とクリアコレクト(600万症例)が圧倒的です。この2つとその他のマウスピースブランドとでは、セットアップ精度に大きな差が開いていると考えてよいと思います。
補足: 医師が経験豊富なら、セットアップ精度は問題にはならない
出来上がったセットアップは歯科医師が必ずチェックします。もしセットアップに問題がある場合、医師はより具体的に移動方法を指示し、セットアップを修正することができます。そのため医師に十分な知識と経験があればセットアップの精度の低さは問題にはなりません。(結局、歯科医師の腕がとても大事だということです。)
結果として生じる
矯正効果の違い
矯正効果の違い1/4動かせる歯が違う
前述の4つの違いによって、結果的に「動かせる歯」に差が出ます。動かせる歯別でブランドを分類するとパターンは以下のようになります。
動かせる歯別のブランド分類
- ① 1-3番しか動かせないブランド※抜歯してスペースを作る症例不可
- ② 1-5番しか動かせないブランド※抜歯してスペースを作る症例不可
- ③ すべての歯を動かせるブランド※抜歯症例も可能
インビザラインとクリアコレクトとシュアスマイルは③に該当します。それ以外のLCM(ローコストマウスピース)はほぼ①か②であり、よくて1-5番までしか動かせません。
逆の言い方をすると、LCMは1-5番までなら動かせるわけですが、だからといって「LCMでも部分矯正は可能」と解釈してしまうのは早計です。そうとは限らないのです。詳しく説明しましょう。
まずはこの歯並びをご覧ください↓
この↑デコボコの下顎を、左右1~5番までの移動のみで、小臼歯の抜歯もせずに整列させようとすると大変なことが起こります。
上図が示すように歯列はせり出し、出っ歯気味になってしまいます。矯正前に上下前歯の前後関係に問題がない場合、最悪矯正によって前歯同士がぶつかるようになります。
つまり、LCMは1-3番ないし5番までを動かせはしますが、その範囲でしかスペースを作ることができないため最適な前歯矯正ができなことが多いわけです(微妙な矯正なら可能)。
↓この方はまさに上記のパターンです
LCMを「前歯部の軽度の不正咬合を部分矯正できるマウスピース矯正」と認識するのは間違いです。LCMは「スペースに問題がない前歯部の不正咬合を矯正できるマウスピース矯正」なのです。
矯正効果の違い2/4抜歯症例の可 / 不可
抜歯症例とは「小臼歯などを抜歯してスペースを作り、前歯部を後方移動させる必要がある症例」です。
抜歯症例の矯正には「前歯部を大きく後ろに動かす」ことが必要になり、高度なテクノロジーが必要です。現状で抜歯症例が可能なマウスピースはインビザライン・クリアコレクト・シュアスマイルのみです。
(対応可能なマウスピースもありますが、症例数が少なく効果が実証されていないためかメーカーが推奨していません。)
矯正効果の違い3/4予測再現性が違う
・アタッチメント
・マウスピースの素材と構造
・トリムライン形状
この3つの要素において優れたテクノロジーを導入し、症例データが多いブランドほど、事前の3Dシミュレーションどおりに歯が動きやすいです(予測再現性が高い)。
予測再現性が高いマウスピースは治療計画の修正(マウスピースの作り直し)も少なくて済みます。逆に予測再現性が低いマウスピースは治療計画の修正が増え、治療に要する期間が伸びやすいです。
また、ものによっては何度作り直しても「結局歯が動かない」ということも起こり得ます↓
矯正効果の違い4/4歯の動きの精細さが違う
アタッチメントがないマウスピースやトリムラインが浅いマウスピースは実現可能な移動様式が限定されます。
アタッチメントがなければ回転・トルク・挺出は無理ですし、トリムラインが浅いと歯体移動が難しいです。
それゆえ細かく歯を動かすことができず、仕上がりが微妙になることもあります。
マウスピース矯正の
ブランドとスペック
それでは各矯正マウスピースブランドの矯正テクノロジーと矯正能力を個別にまとめます。
なお、情報が定かでないものは「不明」としていますが、わかり次第更新していきます。
※情報は2024年9月時点のものです。最新の情報についてはご自身でご確認くださいますようお願い致します。
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり(バリエーションも豊富で様々な移動を実現)
素材の単層 / 多層:
多層
トリムライン形状:
スカラップ(トリムライン形状ではなく、アタッチメントを充実させることで保持力と矯正力を強化するコンセプト)
症例数:
1,500万症例以上(膨大なデータ量が強み)
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
抜歯症例:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり(インビザラインよりはバリエーションは少ない)
素材の単層 / 多層:
多層
トリムライン形状:
2mmカット(トリムラインを深くすることで保持力・矯正力を強化し、アタッチメントを減らすというコンセプト)
症例数:
600万症例以上(膨大なデータ量が強み)
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
抜歯症例:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
単層
トリムライン形状:
スカラップ・ストレート・2mmカット(トリムラインを選択できる)
症例数:
100万症例上
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
抜歯症例:
可能(症例は多数。あとは医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明(剛性重視のマウスピースと柔軟性重視のマウスピースを交互に装着することで、単層素材の弱点を補うコンセプト)
トリムライン形状:
スカラップ・ストレート・2mmカット(トリムラインを選択できる)
症例数:
12万症例以上
矯正能力
小臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
大臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
抜歯症例:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
なし
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
8,000症例
矯正能力
小臼歯移動:
可能(可能とされるが症例数は不明。あとは医師の腕次第)
大臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
抜歯症例:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
単層(ハード・ミディアム・ソフトの3種のマウスピースを交互に装着することで、単層素材の弱点を補うコンセプト)
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
大臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
抜歯症例:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
不明
大臼歯移動:
不明
抜歯症例:
不明
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
不可
抜歯症例:
不明
矯正テクノロジー
アタッチメント:
なし
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
大臼歯移動:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
抜歯症例:
不可(原則不可とされるが医師の腕次第)
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明(剛性重視のマウスピースと柔軟性重視のマウスピースを交互に装着することで、単層素材の弱点を補うコンセプト)
トリムライン形状:
不明
症例数:
3万症例以上
矯正能力
小臼歯移動:
不明
大臼歯移動:
不可
抜歯症例:
不明
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
不可
抜歯症例:
不可
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
可能
大臼歯移動:
不可
抜歯症例:
不明
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
不明
大臼歯移動:
不明
抜歯症例:
不明
矯正テクノロジー
アタッチメント:
あり
素材の単層 / 多層:
不明
トリムライン形状:
不明
症例数:
不明
矯正能力
小臼歯移動:
不明
大臼歯移動:
不明
抜歯症例:
不明
あなたの歯並び、
マウスピースは何枚必要?
マウスピース矯正の費用や治療期間は使用するマウスピースの枚数によって変わります。実際にどれくらいの枚数が必要か気になりませんか?
次のページでは、症状別のマウスピース枚数の目安をご説明します。